牧野 冬生 / 人類学者

建築にアプローチする方法は
いくつもあった

民俗学・文化人類学から建築学へ

部屋には膨大な書籍や資料の山肌を彩るように、フィリピンの民族楽器やレリーフ、お面などがあちこちに飾られている。
「当分はここが拠点になります」
この春、大学教員3年の任期を終えたが、
非常勤の講座は引き続き担当するため、
共同研究者である先生の研究室を間借りしている。
「人類学や民俗学を根っこに、
いろいろな分野から建築にアプローチしたかった」
と言う牧野さん自身をそのまま投影したような空間だ。

大学院に進んだ当時から、
フィールドワークの対象としているのがフィリピン。
「マニラのスクウォッター(スラムの不法占拠地域)の
開発問題について、NGOや現地の大学など研究機関と共に、
住民主導の開発プロジェクトを実現できないか、
追求しているんです」

以前は、個別の家そのものの設計に関わりたいと思っていた。
だが、時間の経過とともに思考は広がりを見せる。
「まちも地域も都市景観も、
人の営みの最小単位である住居の集合体と気づいたんです。
特定の分野の枠内で身につけた知識や技術では
一面しか見えてこない。
学ぶべきことはまだまだ山のようにある」

お面
民俗学、文化人類学、都市人類学、宗教人類学…。「さまざまな分野を横断している建築は本当に面白い。人間そのものに対する興味が僕の原点です」

建築学の奥深さ
その魅力を探求できた芸術学校

フィールドワーク以外で最も刺激を得たのが、
芸術学校で過ごした3年間。
「建築の第一線で活躍する先生や、
アグレッシブな同期の仲間たちとの出会いは強烈でした。
彼らとのやりとりのなかでプレゼンのスキルや
コミュニケーションの手法が磨かれていったと思います。
自分の考えを人に伝える技術は、
特に『設計製図』(※1)演習を通して肌で学べました」

建築は、人間学の中にある一分野。
工学的な側面だけにとらわれない、新たな学際的研究を目指すという目標が、ここではっきりと形をとった。
「あらゆる分野を横断していて、
これほど生活に密着している分野はない。
そうか、人の生活の場の研究から
『建築』に関わっていくこと、
それが僕のずっと歩みたかった道なんだと。
建築の最たる魅力を存分に探求できたのは、芸術学校でした」

本棚
お世話になっている亘純吉先生の専門も、文化人類学と民俗学。
いたるところに雑貨や民具が置かれた研究室は「狭いけれど、居心地がいいですね」

切磋琢磨し合える仲間たち

卒業後も、仲間たちとの付き合いは続いている。
昨年から今年初めにかけて、同期生3人で
多忙な時間の合間を縫ってプランを練り、
「お互いに『負けられないな』と思いながら」、
作業に取り組んだまちづくりプランで
UDC:(財)都市づくりパブリックデザインセンターの
都市デザイン競技に応募。
結果発表を待つ間に、
博士学位論文の応用研究が小野梓記念賞(※2)を受賞した。
「これまで取り組んできた成果が
評価される時期に来ていることを感じた春でした。
コンペも奨励賞と彦根市長特別賞を受賞しました」

充実の時期を迎え、今後はトランスナショナリズム(※3)の考え方を住居研究に応用し、
フィリピン同様、移民の多いメキシコに、
現地調査に行く予定だという。
「大学時代の寮で一緒だった友人と、
移民と住居に関わる共同研究プロジェクトを立ち上げたんです。
芸術学校も、企業勤めも、スイスにいたのも3年間。
なぜかいろいろなことが3年周期で大きく動くんですよね」

3年間の専任講師の任期を終え、再び挑戦の日々がやってくる。
牧野さんの部屋の彩りにまた一つ、
新たな色が加わることになりそうだ。

  • (※1)建築設計製図I・II(1年)
    建築設計製図Iでは、図面の書き方、読みとり方等を学びながら、
    建築を支えている基礎的知識を習得。
    建築設計製図IIでは、Iで身につけた基礎をもとに、
    住宅を題材にしてその応用を学び、
    後半には具体的な住宅設計の課題が与えられ、
    考え方・図面表現・デザインなどを総合的に学ぶ。 本文に戻る
  • (※2)小野梓記念賞
    早稲田大学の学術・芸術・スポーツの分野で
    優れた成果を残した学生に対して授与される、
    最も権威ある賞。 本文に戻る
  • (※3)トランスナショナリズム
    グローバリゼーションに伴い、地球的規模で、
    ヒトの国境を越えた移住が激しくなっただけでなく、
    国境をまたいだ「社会的ネットワーク」が形成されつつある
    現象のこと。 本文に戻る

詳しいプロフィールを見る

牧野 冬生 / 人類学者

1975年長野県生まれ。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科
国際関係学修士課程、同博士課程修了。
博士(学術)。チューリヒ大学大学院民族学教室博士課程留学を経て、

早稲田大学芸術学校建築設計卒業。
卒業後は駒沢女子大で教員として勤務。
2009年より人類学者としての道を歩み始めた。

 

受賞歴
2008 フィリピン政府主催国際建築設計コンペ
「Millenium School Design Competition」入賞
などがある。

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フィールドワーク
フィールドワーク中のマニラにて。「住む人にとっての"住みよさ"と、専門家の考える"良い住宅"は必ずしも一致しない。住民の視点から考えることの大切さを痛感します」

牧野さんの道具
  • MOLESKINEの手帳
    「MOLESKINE」の手帳

    約7年前から愛用している。左ページにはメモやスケッチなど何でも書きとめ、図面や写真などはpdfに縮小コピーをとって貼付。右ページは、あとで感想や関連事項を書き込むために白紙のままにしておく。「方眼罫、ページが開きやすい点が使いやすくて気に入っています」

  • 帆布製のトートバッグ
    帆布製のトートバッグ

    芸術学校入学時に購入した。「丈夫で大きくてマチもたっぷり。たくさんついているポケットも機能的。何でも入れられて、とにかく使い勝手がいいのでどこへでも持っていきます」

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